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退職勧奨について

退職勧奨とは、特に法令に定めがあるわけではありませんが、使用者側から労働者に対してなされる労働契約の解約の申入れのことです。
そして、労働者が使用者側からの労働契約の解約の申入れに応ずることにより,労働契約の終了という効果が生ずることになると一般的に解されています。

このように労働者と使用者が退職について合意ができたのであれば、その後争うになる可能性はほとんどないと言ってよいでしょう。合意できているわけですから、当然です。

ただ、この退職勧奨をきっかけとして紛争が生ずる場合があります。
1つは,使用者が退職勧奨を行うこと自体に労働者に損害が発生したとして,損害の賠償を求められることがあります。
もう1つは,退職勧奨に応じて退職の意思表示を行ったところ、この退職の意思表示が強迫に該当するとして取り消し(地位確認)請求がなされることがあります。

退職勧奨を受けた労働者が使用者に損害賠償を求めた事案として、下関商業事件(最1小判昭55.7.10)があります。この裁判の一審(山口地裁下関支部判昭49.9.28)は,「退職勧奨はその性質上任命権者(使用者)において自由になし得るもの」であるが、「反面被用者は理由のいかんを問わず,勧奨を受けることを拒否し、あるいは勧奨による退職に応じないことができるのであって勧奨の回数・期間・勧奨者の数等により形式的にその限界を画することはできない。そして,被勧奨者が退職しない旨を明言したとしても,そのことによって,その後は一切の勧奨行為が許されなくなるとも断じ難い。」としています。

この裁判例では①「被勧奨者の意思が確定しているにもかかわらずさらに勧奨を継続することは、不当に被勧奨者の決意の変更を強要するおそれがあり、特に被勧奨者が二義を許さぬ程にはっきりと退職する意思のないことを表明した場合には、新たな退職条件を呈示するなどの特段の事情でもない限り、一旦勧奨を中断して時期をあらためるべき」こと②「勧奨の回数および期間についての限界は,退職を求める事情等の説明および優遇措置等の退職条件の交渉などの経過によって千差万別であり、・・・要するに右の説明や交渉に通常必要な限度に留められるべきであり、ことさらに多数回あるいは長期にわたり勧奨が行なわれることは,正常な交渉が積み重ねられているのでない限り、いたずらに被勧奨者の不安感を増し、不当に退職を強要する結果となる可能性が強く、違法性の判断の重要な要素」であること③「被勧奨者の名誉感情を害することのないよう十分な配慮がなされるべき」ことなどを総合的に勘案して勧奨行為の適法性の判断基準としているのです。

繰り返してなされる、執拗で、半強制的な退職の勧め(退職勧奨、いわゆる肩たたき)は、違法。そして、退職勧奨を行った者は、損害賠償責任を負うということです。

次に地位確認請求については『退職の意思表示に瑕疵があった場合には,労働者はこれを取り消すことができます(民法96条)』。
そして、使用者が、なかなか退職勧奨に応じない労働者に対し、例えば「退職しないなら解雇をせざるを得ない」等と述べたうえで、労働者が退職の意思表示をなした場合には、これは労働者の自由な意思に基づかずになされたものとして、強迫を理由として取り消される場合もあります。
裁判例では「懲戒解雇処分や告訴のあり得べきことを告知し、そうなった場合の不利益を説いて同人から退職届を提出させることは、労働者を畏怖させるに足りる強迫行為というべきであり、これによってなした労働者の退職の意思表示は瑕疵あるものとして取り消し得るものというべきである」(ニシムラ事件、大阪地決昭61.10.17)とされているところです。

強迫とは、例えば、懲戒処分や不利益取扱いをほのめかして退職を申し込ませる場合である。なお、懲戒解雇該当行為に関しては、該当行為がない場合は強迫として前記のように取消が認められるが、該当行為がある場合に懲戒解雇の可能性があることを述べても強迫ではない(ソニー(早期割増退職金)事件 東京地判平14.4.9 労判829-56)ともいう判例もあります。

退職勧奨は、解雇の前に使用者がよくやる手段でしょうが、注意が必要です。

by kt-sr | 2010-05-26 17:57

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