労働者の重過失に伴う損害賠償と賃金からの天引き

日々、経営者の立場において業務行っているが、違法(疑いを含む)に損害賠償を給与からの天引きし、トラブルになっているケースやそれにまつわる相談が後を絶たない。

経営者の言い分も分からなくもないケースも少ないなくが、法的な側面から考えてみると下記の通りである。

まず、罰則を伴う強行法規である労働基準法第24条において賃金の支払いについての次の4つの原則を定めてられている。
賃金については①通貨で②直接、③全額を④毎月一回以上、⑤一定期日に支払うという原則。

ここで③全額払いの例外として賃金の一部を控除して支払うことが許されるのは、【法令に別段の定めが有る場合】【労使協定が有る場合】とされており、前者の【法令に別段の定めが有る場合】については、いわゆる個人負担の税金と社会保険料および労働基準法91条に基づく制裁金のことであり、問題になることはありません。

一方、後者の【労使協定が有る場合】については、何でも協定があれば控除できるかというとここには行政通達と言われるもので制約があり、「購入代金、社宅、寮その他の福利厚生施設の費用、社内預金、組合費等事由明白なものについてのみ・・・・・・認める」(昭27.9.20基発第675号)となっている。

それでは、よく相談のあるケースとして労働者の(重)過失によって会社に損害を与えた場合にどう考えても労働者の責任は免れない場合には、いわゆる重過失の場合は、会社は損害賠償を請求できるか否かについては、常識的に考えての通り当然のことだと思われる。

しかし、その損害賠償額を一方的に労働者が承知しない限り会社が決定することはできませんし、労働基準法16条においても「賠償予定の禁止」により事前にあらかじめ損害額を定めておくようなことも出来きません。

従って、損害が生じてもその金額については、その都度、話し合い決着させるのが現実的な対応である。 
このようなトラブルが発生した時、労働者が素直に損害賠償に応じるならばトラブルになることはないでしょうが、損害賠償に応じない場合は、裁判でも、労働者に余程の大きな過失が無い限り、全額労働者が払えとはならない。

なぜなら労働者を雇用する以上、会社にも損害保険に入るなどの危機管理責任があり、教育責任や管理責任も問われてくるのである。

なお、たとえ損害賠償に同意したとしても賃金との相殺については注意が必要である。

最高裁の判例では、「賃金は労働者の生活を支える重要な財源であり、日常必要とするものなので、使用者が労働者に対して有する債権を賃金と相殺することも許されないとの趣旨を含んでいるものと解するのが相当である。これは、その債権が不法行為を原因としたものでも変わりはない。」(関西精機事件・最二小判昭31.11.2)
要するに、使用者による一方的な相殺は許されないという見解である。

一方、賃金との相殺に労働者が同意している場合は、判例では、労働者の完全に自由な意思に基づいていると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することを要件として、全額払いの原則に反しないと解釈している(日新製鋼事件・最二小判平2.11.16)。

いずれにしろ、会社が労働者を雇用する目的を鑑みると反省はしっかりとして貰うことは当然であるが、安易な損害賠償請求を避けるべきであり、その請求額にもついても注意が必要である。
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by kt-sr | 2013-01-19 07:10

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